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「摩耶、逃げろ!」
いいながら、勇哉は両手のひらにイメージした。サッカーボール程度の黒球が生み出されると、二人の黒服に投げつけた。黒服を含めて全ての人が呆然とした。ただの高校生からいきなり闇の塊が生み出されると、飛んできたのだ。それは理解を超えた出来事だった。おもわず硬直して黒服は衝撃に備えた。だが、黒球は衝突してもなにも衝撃を与えず砕けた。だが、隙は出来た。摩耶を抑える力が弱まった。摩耶は自由になった上半身だけで黒服の側頭部を二回、右手で殴った。黒服はこめかみから血を流してのたうつ。無論、摩耶は拳法をつかったわけではない。一回目に殴るときに、自分の眼鏡を叩きつけ砕き、二回目にはその割れた欠片を突き刺したのだ。摩耶は自由になると、呆然としていた黒服のもう片方から手のゴルディオンの槌を奪取すると、「勇哉!」と叫びながらすばやく走り出す。それをみて勇哉が摩耶に続いて駆け出す。それをきっかけに他の客も逃げ出す。たちまち混乱が場を支配する。
「貴様ら、それでも光邪の一員か! はやく奪い返せ」
いち早く復活した牙王が黒服に指示を飛ばす。それをうけて黒服が動き出そうとする。その瞬間、いたるところで物が割れる音がした。ついで空気が裂ける音がし、直後に柔らかいものものに勢い良くモノが刺さる音がした。全身にガラスの破片が刺さって黒服は動かなくなっていた。牙王が振りかえると、逃げていく人に逆らうように一人の男がゆっくり歩いてきた。色あせたビンテージっぽいジーパン、白い長袖の上着、黒い髪は後ろだけ束ねていた。口には微かな笑み、瞳には皮肉っぽい光りがたたえられていた。
「はじめまして光邪のかた」
男はそういうと右手をゆっくりとあげる。それとともに周囲の展示品、ガラスケースの破片などが浮かび上がる。
「そしてさようなら」
右手を振りおろすと、空中にあった物体が次々と牙王めがけてうなりを挙げて飛来する。
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