第2話 はじまりの終わり

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「勇哉、左に曲がって!」 鋭く叫ぶと左にターンする。腕を振って慣性をうまく制御することでスピードをほとんどロスせずに曲がりきる。勇哉は抱えている重さで、うまく曲がれずたたらを踏んでしまうが、方向転換直後にダッシュすることでなんとか摩耶に追いつく。 「どうしたの?」 「外に黒のベンツと黒服がいたわ。恐らくあいつらの仲間よ」 「じゃ、どこに行くの」 「安全なところをさがすのよ」 摩耶は廊下を駆け抜けながら外を見ている。と、裏手に近くなったところでスピードを緩める。外は森が繁っている。たしかに森に入ってしまえば探すのは困難だろう。人数が少ないのなおさら。左手を水平に挙げて勇哉を制しながらとまる。 「勇哉、ガラスをぶち破って!!」 摩耶はいきなり勇哉に指示する。窓ガラスはわりと分厚く丈夫そうにみえる。素手で割るには硬そうである。だから勇哉は追加の指示を仰いだ。 「どうやって?」 摩耶の返答ははやかった 「その手のモノは飾りぃ!?」 確かに手には槌が握られているのだが 「貴重な歴史的遺産でやれっていうの!?」 「作られた時代には物を叩いていたのよ。正しい用途でつかうから問題ないわ!」 摩耶が勇哉を言い負かしている時に、廊下の角から足音が近づいてくる。異変を察知したバックアップ要員が向かってきたのだ。その音は二人にも届き、勇哉は決心した。摩耶の詭弁に屈すると。 「ええぃ、ゴルディオン・ハンマーっ!!」 オーパーツを叩きつけると、派手な音を立ててあっさりと窓ガラスは砕けた。ガラスのほとんどがなくなり風通しが良くなりすぎた窓に摩耶は素早く身を躍らせた。高さはたかだか1mもない。短い空中浮遊ののち芝生に着地する。膝をクッションにして衝撃を緩和させるとすぐに走り出す。後ろで勇哉が着地する気配がある。格好良くとはいかないまでも無様なことはしなかったらしい。ならば大丈夫だろうと、摩耶は遠慮なく駆け出す。高さ30cmほどの博物館の敷地を示す柵を乗り越えると、なだらかな斜面をすべるように奥へ奥へと移動する。とりあえず落ちつくのは安全なところでと、出来る限りのスピードで。勇哉はそんな摩耶になんとか追いつきながら、まず手の中のゴルディオンの槌を見てえらいことになったと思い、ついで摩耶の背中を見てえらい人間と友達やってるとおもった。後方からは追っては迫っていない。とりあえずは振りきったらしい
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