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ウェインカラクルはどこにでもいるアイヌの古戦士。唯一、禁断の秘法を用いて、人なら
ぬ力をその身に住まわせたことを除いては…。
午前四時。廃屋となったビルの中である。無論、目覚し時計などないが、ウェインカラク
ルはふと目覚めた。彼はゆっくりと目を開けた。アイヌの古戦士を眠りから覚まさせたのは、
殺気だった。眠りについていても、彼らの感覚は身を守る為に平常と同じ様に機能していた。
ただ、この時、殺気は自分に向けられたものではなかった。物音一つしない暗闇に目を凝ら
すと、猫がいた。しなやかに体を屈曲させている。猫も猛獣には違いない。怪しく光る両眼
の先には、何も知らないネズミがいた。おそらく、そのネズミは何秒か後には死ぬだろう。
殺気に反応できない者には死あるのみだ。それはウェインカラクルのいる世界も、まさに同
じだった。
しばらくしてウェインカラクルは立ち上がった。膝の砂埃を払って、ドアの外れた入り口
の方に向き直った。
暗闇にうっすらと人影があった。
「…意外に遅かったな」
ウェインカラクルが低く言った。
「シノキリカコタンは貴様の抹殺を決定致した」
影は短く言った。ウェインカラクルはさして驚いた風でもなく、影を見つめている。懐か
しい故郷の名を反応したのが、隙だと言えば、言えなくもない。影の動きは唐突だった。間
合いに入るやいなや、大きく跳躍し、ウェインカラクルのはるか頭上から襲い掛かった。
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