第3章 もう一人の闇使い

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チチカカコは再び大きく距離を開けた。木剣で勝てると思ったのは甘かったようだ。  チチカカコは一回大きく息をして、柄を握る右手に力を込めた。ウェインカラクルは驚い た。チチカカコの手から黒い液体が木剣に流れている、ように見えた。右手を中心にインク が水に溶けるように、木目の刀身が黒く変化している。深みのある黒だ。闇そのものである。 「おまえ、闇を修行したか…」  完全に木剣全体が変化し終えた。真っ黒な刀身は「夜」を思い浮かばせる。周囲の温度が 少し下がったようだ。 「おまえが…、闇聖であればな…」  考え得る限り、最も安易な解決法をウェインカラクルは示した。だが世の中は、そう上手 くはいかない。 「闇聖は、拙者など足元にも及ばぬ」  木剣は美しい黒い軌跡を描いた。 「コタンの掟に従ってもらおう」  木剣自体の変化で、先程までと比べて、数段切れ味が増している。驚きつつも、その一撃 を小手で受け止めたのは、さすがにウェインカラクルである。だが本当に驚いたのは次の瞬 間だった。有り得ない衝撃で小手が粉々に砕け散ったのである。 「なにぃっ!」  その隙を逃すはずもなく、流れるような第二撃が胴へと迫る。とっさに二本の剣を縦に構 え、ウェインカラクルはその攻撃を完璧に防いだ。はずだった。 「おおおおお!」 「おおおおお!」  二本の剣でガードされたまま、チチカカコはそのまま「夜」を振り抜いたのである。  物凄い衝撃波がウェインカラクルを襲った。  ドゴオオオオオン!  大柄な体は吹き飛ばされ、後方のコンクリートの壁に激突した。蜘蛛の巣状に広がった無 数のひび割れの真ん中に、平泳ぎの格好で壁に叩き付けられたウェインカラクルだった。や や右に傾いている。 「ぶぎゅるる…」  クルクルと目が回り、数羽のヒヨコを幻想を彼は見た。だが、それも一瞬、元のきつい眼 差しにもどり、何が起こったか、体の輪郭がぶれた。その途端にウェインカラクルの首筋を 「夜」の刀身が貫いていた。  しかしチチカカコの表情は険しかった。手応えがない。輪郭がぶれた瞬間、ウェインカラ クルは跳躍していたのだ。後に残ったのはウェインカラクルの上着と、それを貫き壁に突き 刺さっている「夜」。 「のがしたか…」  「夜」を引き抜きながら、チチカカコは呟いた。
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