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不意に木陰から声がした。
「!!」
そこには、先程の男、ウェインカラクルが立っていた。無論、声は、彼のものではない。
ウェインカラクルから少し離れたところにもう一人立っている。老婆だった。
「早く連れて行けって、聞かないんだ。この婆さん」
警戒よりも、先程この男に助けられた記憶がさきにあった。
「あなたは…?」
「ウェインカラクルだ。この婆さんに君達の保護を頼まれた。この婆さんは、ニイメ…」
ニイメ婆さんがウェインカラクルを睨んだ。婆さんの連発が気に入らなかったらしい。
「摩耶…」
ニイメ婆さんはいきなり摩耶の名を口にした。保護を命じるくらいだ。名を知らぬ訳はな
いのだが。摩耶は驚いたようだ。
「戻って、何を?」
「連中の手掛かりを…探しに…」
「ひょほっほっほ~」
ニイメ婆さんは嬉しそうに笑った。若い頃の自分にそっくりじゃて、と言いたげに見える。
三人は思った。何百年前だ…、とまで思ったのは、ウェインカラクル一人だった。
「連中は光邪。さっきの男は牙王。まあ、光邪の『手』じゃわな」
今度は大袈裟な身振りで勇哉に向かってパタパタと手招きした。好奇心旺盛な子どものよ
うだ。
「手を…」
勇哉が右手を差し出すと、ニイメ婆さんは、そっと両手で握りしめた。勇哉の闇を自分の
心に投影させてみる。読心術である。
「…」
闇のイメージが広がる。星のない夜空。果てしなく巨大にして濃密。冷たい夜の闇。漆黒
の世界。自分の愛弟子であるチチカカコでさえ、その闇は刀身を形成するのが精一杯であっ
た。
勇哉は世界だ。
「狙われる訳は分るか?」
ニイメ婆さんは勇哉に問い掛けた。勇哉は確かにこの老婆の瞳に自分の内面を見た。闇だ。
この為だ、との思いはすでに勇哉の中では確信に変わっていた。
勇哉は頷いた。
「…闇」
「そうじゃ」
ニイメ婆さんは摩耶の方を向いた。
「討つべきは、牙王などではないよ」
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