第3章 もう一人の闇使い

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「コタンにしばられるな」  あまりに静かな口調である。チチカカコにはそれが余裕だと感じられた。 「なにい!」 「おやめ」  右手をあげてニイメ婆さんが言った。 「コタンの掟は、コタンの掟。成敗は果たさねばならないよ」  ウェインカラクルは言葉もない。殺せ、と言う意味だが、小気味よささえ感じる。 「だが。一時預かるよ。この私がね」  師匠であるニイメの言葉は、サムライ・チチカカコにとってまさに絶対だった。 「分り申した」  しかし若いチチカカコはウェインカラクルに聞こえるように呟いた。口先をとがらせて。 腹いせだった。 「ぶぎゅるる…」  穏やかだったウェインカラクルから爆発的な殺気が発せられた。眼光が鋭く光り、周囲の 森がざわめく。 「おやめ」  ニイメ婆さんはまた右手で二人をなだめながら言った。  勇哉と摩耶は顔を見合わせた。  どうやらこの三人は味方らしい。それも大変な味方のようだ。摩耶の怒りエネルギーも正 しい方向に導いてくれた。  もめ始めた三人を見ながら勇哉は思った。 「…」  博物館に来る前は、間近に迫った夏休みのことなども気になってはいた。だが、それどこ ろではないらしい。  少し混乱していたが、性格上、それは顔には出なかった。  あきらめとも覚悟とも取れる感情が勇哉の内に芽生えていた。生まれたばかりで、まだ曖 昧だが、その感情は熱くなる、勇哉にはそう感じられた。
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