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Ⅰ.
6時10分、本格的な夏を迎えようとしている日差しは、しかし、日中のような容赦の無さはまだ見せていない。ここ最近雨が遠ざかっているから、夏特有のじめじめとしたうっとおしさも和らいでいて、まだ過ごしやすい。まぁ、あと1時間も持たないけど。
学校が始まるのが8時40分ということから考えると、早すぎるこの時間が僕のいつもの出かける時間だ。
部活にも入ってないから朝練がある訳じゃないし、学校までとんでもなく離れてるって訳じゃない。駅まで歩いて15分、電車に揺られて30分、駅から学校まではいいとこ10分ってとこかな?
「どうしてそんなに早く出るの?」って人に聞かれるとちょっと困っちゃうけど、この朝のゆったり感っていうか、慌ただしさのない落ちついた雰囲気が好きなんだ。慌てて何かやったりとか、競争してでも早くっていうのは昔から苦手だったし…
でもそれだけじゃない。駅に向う途中の、今では珍しくなったたばこ屋の、自動販売機とかあるから朝はもっとゆっくりしたらいいのにって話しても「今更長年の習慣は変えられやしないよ。ぼんみたいな若い学生さんと話すこともできるしねぇ」って言って、平和そうに微笑むおばあちゃんと交わす朝のあいさつ。駅に向う道を同じ方向に向かう通勤者、行き交う散歩する人々。ほとんど通勤者の、でも座れない訳じゃない、いつもの時間の電車の心地よい振動。やや呆れたような笑みで僕の立ち読みを見逃してくれる駅前の行きつけの本屋の店長。そんな何気ない日常がすごく好きなんだ。ジジくさいけどね。
でも、ひょっとしたら、こんな穏やかな日常がいつまでも続けられないんじゃないかって、心の何処かで常に感じていたのかもしれない。
ずっとこんな不安を自覚してた訳じゃない。博物館の一件、その後のニイメっていうお婆さんとの話とその時に感じた不思議な感覚。そして、そこで見た闇のビジョン。
闇聖、光邪、二千年前、ゴルディオン、光の神、悪魔の光、封印…
「何辛気臭い顔でヤンジャンとにらめっこしてんの?何か変わったマンガでも始まった?」
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