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不意に後から声が掛かる。よく知ってる声。摩耶だ。
あんなことがあったのに彼女は変わらない。変わったのは博物館で割れて(割って?)しまった眼鏡位だ。いつもの印象に残る溌剌とした笑顔。
「…なんだ、摩耶か…」
一瞬振り向いて、すぐ雑誌の方に顔を戻した僕の気の無い返事に、摩耶の顔が瞬時に曇る。半ば無視されたような態度が気に入らなかったみたいだ。
「なんだとは何よ!せっかくこの美人の摩耶ちゃんが、冴えない男に朝から声掛けてあげてあげてるのに!」
綺麗に整った形の良い眉が鋭角に歪んでる。爆発寸前の合図だ。まずい!
「ご、ごめん。ちょっと考え事してたんだ。別に無視した訳じゃないよ。そ、それに摩耶がこんなに早く来るって思わなくって、びっくりっていうか、そう、じ、実感できなかったんだよ、摩耶のこと。そ、それに今日は随分早いじゃないか。まだ7時40分だよ?いつもより50分は早いじゃないか?なにかあったっけ?」
慌ててフォローを入れる。ついでに疑問もぶつけてみた。
ちょっとでも摩耶の怒気をそらさないといけないってのもあるけど、ホントに知りたかったんだ。摩耶が朝弱いのは勿論知ってる。よほどの事がないと学校始まる時間より一時間も早く来るなんてことはないはすなのに…
「フンっ、なんにもないよ~だっ!!どこかの誰かさんが今週ずっと辛気臭い顔してるからちょっと気になっただけっ!さっ行くよっ。」
そう言ってそそくさと背を向け、出口に向かう摩耶。
「えっ?!っちょ、ちょっと待ってくれよ~。」
摩耶を追いかけるように本屋を出る。さっきの言葉ってどういう意味だろ?摩耶なりに僕の事心配してくれてるって素直に受けとっちゃっていいのかな?なんのかんの言って他人の世話焼きたがるのは昔からだけど。
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