第四話 混沌への誘い

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本屋を出て、いつもの様に並んで学校に向かう。5分も歩けば、もう学校が見えてくる。やや高台にある為、ここからは坂道になっていて自転車で通ってるやつらからは大いに不評だけど、春には道路にそって植えてある桜並木がとても綺麗なので僕は気に入ってる。  いつもなら他愛も無い、昨日のテレビの話とかを交わしながら遅刻寸前に校門に駆け込むんだけど、今日はそれよりだいぶ早い。あれからなんとなく口を開きがたい雰囲気が立ち込めていて二人とも無言のまま黙々と歩いていた。  坂の中ほどまで来た時、沈黙に耐え兼ねたというか、我慢できなくなったといった風情で、摩耶が深い溜息を一つすると、足を止めて僕の前に立ち塞がった。 「やっぱり、まだ土曜の件気にしてるの?あれからもう5日だよ?これまで何にもなかったじゃん!それに気にしたって勇哉がどうこうできる事でもないんでしょ?気にするだけ無駄!何か起こるにしても起こってから対処すればいいでしょ?それとも何?勇哉は先の事が何でも分かるとでもいうの?」  腰に手を両手を置いた姿勢で一気に捲くし立てる。あまりに摩耶らしい意見に思わず絶句しかけてしまった。 「…無茶苦茶だよ。それは~。」 「正論でしょ?」  そう言ってまた歩き始める摩耶。自信に満ちた笑顔。学校っていうか見ず知らずの他人の前では絶対に見せない生き生きとした顔。別に猫被る必要なんてないのに、って思うのはいつもこういう顔を見た時だ。あっ、でもあの過激なとこは隠した方がいいかな?猫被るのは摩耶なりの自己防衛なんだろうけど… 「一面を見ればね。」  言葉ではちょっと否定してみた。先に行く摩耶に追いつく為にやや早足になる。 「あ~、反論する気ね。」  言葉とは裏腹に少しうれしそうに答える摩耶。彼女のこんな明るさで僕はいつも救われてる。5年前のあの時も、今日も…
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