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いつもは苦痛なだけの、お決まりの長話。しかし今日の勇哉にとって終業式の時間などは無いに等しいものだった。別に可もなく不可もない成績表を鞄に入れ、ため息をひとつ。
「おい勇哉、何ため息なんかついてんだよ。明日から俺らが待ち望んだバケーションだぜ?もっと明るい顔しろって」いつもの悪友がそう言って勇哉の背中をたたく。
「あ、いや、なんでもないんだ・・・。」
そう、夏休み。世間ではこれからの予定に胸をときめかせるはずのイベント。なのに勇哉の心には決して拭いきれないものがある。まるで黒い澱のようにそれは、胸の奥に影を落とす。彼が密かに持っている能力――闇を生み出す力――が、これからの彼の運命をどうするのか勇哉自身にも分からない、ということがその大きな原因だった。
「こら、まだそんな顔してる」そういって勇哉の顔をのぞき込むのは友達以上恋人未満?の女友達、摩耶。いつの間にか教室には人影も失せ、彼ら二人だけになっている。
「早く行こうよ、お腹すいたしさっ」
「そうだね」
駅までの10分は、摩耶が見たいらしい映画の話で盛り上がった。
「この映画はね、時代考証がすごいらしいの。小道具にも凝っててね・・・」
「相変わらず好きだね、古代王国モノ」
「そりゃそうよ、だって・・・」
そんなこんなであっという間に駅に着く。
「ご飯はどこにする?ドム3はこないだ行ったよな」
「えーと、あそこの新しいパスタ屋なんてどう?」摩耶は駅前の一角を指さす。
「どこ?」とその指さす方向を見つめた勇哉は、全身に電流が走るのを感じた。その原因は・・・学生がごった返す中に強烈な違和感を放つ、黒ずくめの男女二人。
「あれ・・・?」
「何ぼーっとしてるの?そこじゃ嫌?」
「あ、いや、とんでもない。行こっか」気のせいだよな、と違和感を振り払って勇哉は歩きだす。
本能の警告が正しかったと気づくのはもう少し後の話になる・・・。
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