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――「奴が”闇聖”か?」
「はい、赤光(しゃっこう)様」
「・・・どうみても、彼女連れの平凡な高校生にしか見えないが。まぁいい、牙よ」
「はい」
「暑いからハロゲンダッツのアイス買ってきて。クッキー&クリーム、コーンでね」
「・・・はい」
牙は先日の博物館で牙王と呼ばれた男である。あのときに受けた傷がまだ癒えていないらしく、包帯やら絆創膏やらがあちこちに見える。
その牙王が「赤光様」と呼ぶ人物はどうかというと・・・黒いTシャツと皮パン、黒のベレー帽に身を包み、じゃらじゃらとシルバーのチェーン等を付けた――少女だった。
それなりの格好さえすれば美少女で通る整った顔立ち、完璧に手入れされた琥珀色のセミロングの髪はすれ違う男の目を引きつけずにはおれない。もちろん、彼女が闇組織「光邪」のナンバー2であることを知らなければ、の話だが。
「あいつを封じれば、我ら光邪がこの世を手にする日が来るのか・・・」
「・・・アイス、皮パンに垂れてますよ」
「マジ?!ちょーサイアク!!新しいの買いに行く!!」
「・・・赤光様は実力は申し分ないのに、この性格がなぁ・・・。」赤光に引きずられながら、牙王は遠い目をしていた・・・。
映画館に入る前は容赦なく照りつけていた真夏の太陽も、夕方になって少しはその威力を弱めたようだった。摩耶は今見たばかりの映画のパンフを歩きながら読んでいる。そうやって歩くのは危険だと勇哉は思ったが、彼女の器用に障害物を避ける様子を見て、それを口にするのは止めた。
駅まではあと少し。このまま何もなければ、楽しい一日で終わるはずだった。そう、このまま終われば・・・。
しかし、残念ながら運命は勇哉にもう一働きすることを命じた。
「こんにちは、闇聖くん☆」背中から電流が走る。弾かれたように振り向く勇哉。そこに立っていたのは、昼間見た黒ずくめの少女と男だった。男はショップの袋を両手いっぱいに持たされているが、どうしてそんなものを持っているのか勇哉には理解できなかった。
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