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「できるかどうかわかりませんが、やってみます」きっぱりと言って、木剣を構える。
そして、チチカカコの登場が一番信じられないのが赤光である。
「あなた誰?なんであたしの結界に入ってこれるの?」
「力の差、というやつだ」
「な・・・!」怒りを露わにする赤光。
「しかし、拙者にあんまり構っていても良いのか、光邪の娘よ?」
「!」何のことか気づいた赤光が勇哉に注意を向けたとき、既に『夜』の剣は完成していた。まだ慣れていないため刀身は時々揺らぐが、新月のような闇は剣の形をとっている。
「そこまでできれば後は大丈夫だろう。それでは摩耶を助けに行ってくる」そう言ってチチカカコは造作もなく結界から出ていった。
「ちっ!」彼女は舌打ちを一つして、手に持った深紅の剣で勇哉に斬りかかる。剣術が素人の勇哉は受け止めるのが精一杯だ。しかし、『夜』の剣の力はすさまじく、防戦一方にも関わらず、三回も切り結ぶころには深紅の剣を真っ二つに折る。
「うそ・・・っ」剣が折れ、明らかに動揺する赤光。その隙は戦場では命取りだった。
「やああぁぁぁっ!!」勇哉の振り下ろす剣を赤光は避けられない。刃は赤光の左肩を袈裟懸けの格好でえぐる。肉が切れる、とても嫌な感覚が勇哉の手のひらに伝わり、顔や身体に返り血がかかる。斬られた赤光はその場に倒れ込む。そこは既に血の海と化していた。勝負は決したのだ。
「はぁ・・・、よかった、闇聖くんがあたしより強くて・・・」か細い声で赤光が言う。
「え・・・?」
「この力も・・・立場も・・・ちょっと重荷だったんだ・・・。」
それを聞いて、勇哉の心にある疑問が浮かぶ。あの場面でどうして自分を倒すのを躊躇したのか。どうして自分を苦しめずに戦いを終わらせようとしたのか。自分の仮説が正しいならば、彼女は。
「も、もしかして、君は・・・戦うのが」
続きを言いかけた勇哉を遮るように、前よりもっと傷だらけになった牙王が転移してくる。血まみれの上司を見た牙王はパニックを起こしかけたが、すぐに正気に戻って言う。
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