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「赤光様にここまで傷を負わせるとは、闇聖の名も伊達ではないな。しかし、我ら光邪が最後には笑うのだ。それまでせいぜい残り少ない人生を楽しむんだな」
そう言った牙王は赤光の身体を抱え、転移を行った。去り際の赤光の目は、勇哉にはとても悲しそうに見えた・・・。
同時に結界が消え、夕方の雑踏はいつものざわめきを取り戻す。血の海も、タイルの傷も初めからなかったもののように姿を消し、自分の傷だけがさっきまでの激烈な戦闘が現実であることを証明していた。勇哉は悪夢のような、その時間に思いを馳せる。初めて味わう、人を斬る感触、飛び散る血液。自分の力でそんなことができるなんて。自分で自分が恐ろしく感じる。そして、敵でありながら、憎みきれない少女のこと。あの子も自分も、力や立場に振り回されているだけのように思えてならない・・・。
「ゆうやー!」
雑踏の向こうから、聞き慣れた声がする。摩耶だ。どうやら無事だったらしい。それもそうである、チチカカコだけでなく、ウェインカラクルまでもが摩耶と一緒に歩いてくる。
「勇哉も無事でよかったけど、私を放っておくなんて許し難いわね。ウェインさんが来なかったらどうなってたことか。責任はとってもらうわよ」摩耶はちょっと怒った顔でそう言った後、ふふっと笑う。
「犬ころが何度来たとしても、私の敵ではないんでね」ウェインカラクルが退屈そうに言う。
「本当にありがとうございます。ウェインカラクルさん、チチカカコ」勇哉は二人に礼を言った。この二人がいなければ、自分と摩耶は多分生きていなかったのだ。
「勇哉殿、お疲れのところかたじけないが、我が師がこれからのことについて話がある故、すぐ屋敷に来られたしとのこと。よろしいか?」
「ああ。」自分を直接狙う者が現れた以上、もっと自分に力、最低限自分と摩耶を守るだけの力が必要だと感じていた勇哉に、その申し出を断る理由はなかった・・・。
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