第六話 幕間狂言

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ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。 心地よい振動に、勇哉はまぶたが重くなっていくのを自覚する。 赤光らによる襲撃のあと、着替えと傷の手当てをすませた勇哉と摩耶はチチカカコに案内されるまま電車に乗っていた。 ニイメの屋敷に案内すると言われ、転移による瞬間移動を期待した勇哉だったが、その期待はあっさりと裏切られた。位置を正確に覚えて欲しいというのがその理由だったが、一足先に転移で向かったウェインカラクルを尻目に、こうして電車に揺られている。 帰宅ラッシュの時間にはまだ早く、閑散とした車内を漫然と眺めながら勇哉は考える。 他の誰でもない自分を目的とした襲撃。もしあの場にチチカカコとウェインカラクルが来なければ、勇哉は封じられ、摩耶は殺されていただろう。 ――摩耶が殺されていたかもしれない。その事実に勇哉はあらためて慄然とする。 しかも相手は人知を超えた能力の持ち主なのだ。一介の高校生である勇哉には荷が勝ちすぎる。 守る方法は、ある。勇哉は自らの両手を見つめる。 すべての元凶とも言える「闇」の力。もし使いこなせるなら身を守るのに有効なのは間違いない。 だが、あんなのはもうゴメンだ。勇哉は両手を堅く握りしめる。 まざまざと甦る肉を切り裂く斬撃の感触。そして、自らの血の海に倒れこむ哀しげな目の少女。 摩耶を守るために力を揮うということは、またあの少女のような犠牲者を出すということではないのか? そこまで考えて、勇哉は小さくかぶりを振る。 悲観的に考えても仕方がない。ウェインカラクルやチチカカコが全面的に護ってくれるなら自分の出番はありそうにないし、あの少女も見た目より軽傷で済んでいるかもしれない。 ふと、左の肩に重みを感じる。 見ると、摩耶が頭を勇哉の肩にあずけている。 「……ぐぅ」 そして、寝ていた。 「はぁ……」
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