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わざとらしくため息をつきながらも、もたれかかってくる摩耶に悪い気はしない。
そっと寝顔をのぞき見ると、幸せそうな顔でなにやら寝言をつぶやいているようだ。
聞き耳を立ててみると、
「うふふふ……そうやって走り続けていればいいわ、まるで馬車馬のようにね」
いったいどんな夢をみてるんだ!?
叫び出しそうになるのをこらえ、ため息をひとつつくと、今度は右隣のチチカカコに視線を移す。
こっちはこっちで相変わらずだった。
背筋をピンとのばし、筋肉質な腕を胸の前で組み、瞑想に耽るかのように目を閉じている。
さまざまな事を道すがらに聞いていこうと思っていた勇哉だったが、車両に乗り込むなり彫像のように動かなくなってしまったチチカカコを前に声を掛けあぐねていた。
なにか思うところでもあるのかと、その横顔をじっと見つめていると、
「……ぐぅ」
寝ていた。
「ねてたのかよっ!」
今度ははっきりと声に出してつっこみを入れると、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じる。
もとより昼間の襲撃で力を使い果たしているうえ、冷房の利いた車内は快適な事この上ない。
この眠ってくださいと言わんばかりの状況に、勇哉はあっさりと白旗をあげることにした。
まぶたを閉じると、すぐさま意識が沈みはじめる。
うすれていく勇哉の意識を、琥珀色の髪をした少女の姿がよぎる。
あの子、大丈夫なのかな?
自分を襲った少女の身を案じながら、勇哉は眠りに落ちていった。
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