第7話 終わりの始まり

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Ⅰ 牙王は戦場から撤退した後、光邪のアジトの一つに戻っていた。血を流し、意識をなくしぐったりとした赤光を抱きかかえて。郊外の林の中に佇むある製薬会社の研究所。それが表向きのスガタの。 「赤光様。おしかりはあとでいくらでも受けます」 牙王は赤光を人がすっぽりと入るカプセルに横たえる。そして外側のパネルを素早く操作すると、カプセルが閉じ、中に緑色の半透明の液体が満たされ、それが赤光の体を覆っていく。 牙王は赤光が死を望まないにしても、生に苦痛を感じているのを知っていた。それゆえ赤光は無謀ともいえる戦いをしかけたり、地位が上がっても最前線で個人戦をしかけるのである。だが、牙王は赤光を慕っていたし、赤光は光邪にとって必要な人材であるから、牙王は赤光をサポートしていた。赤光自身が生を諦めるようなときでも、牙王は赤光を守りいかすつもりである。今も赤光の傷は放っておけば危なく、また赤光自身は放っておかれることを望んでいる。しかし牙王は赤光を生かすべく、傷の治療用の特殊な溶液に浸したのである。  ついで自分の傷の治療をするべく、衣服を脱ぐと傷口に包帯を捲きつけ、その上から複雑な文様の描かれた符を張っていく。符による治療は、溶液につかるよりも時間がかかるし、ひどい傷だと効果がなかったりするのの、自由に動くことが出来る。もっとも傷自体はなくならないから、苦痛を我慢しなければならないが 「…くっ、なんとかここを守らなければな」 服を整えると、ふらつく体に無理矢理力を入れ立ちあがり、重い体を引きずるように通信設備の整った部屋に移動する。 コンソールパネルを操作して、光邪の本部と接続をつなぐ。程なくしてモニターに20代半ばの女性が写る。オペレーターである。牙王はすぐさま責任者に替わるように言うが、途中に遮られる。40代の冷酷そうな男がモニターに映し出される 「…イスカリオテ、なんの真似だ」
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