第7話 終わりの始まり

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「よし、結界を開いてやるか」 ニイメの声に反応したのはチチカカコである。 「ニイメ様、危険です。なにより勇哉殿と摩耶もいます」 「ふん、あんたたち二人が揃っていて犬に遅れをとるのかい?」 一瞬、チチカカコが言葉に詰まる。その間にニイメは指先で印を結ぶとなにか呟く。それをみてウェインカラクルは姿勢を低くした。臨戦態勢である。 すこし風がゆれたと勇哉と摩耶が思った一瞬で、ティンダロスの猟犬はあれほど弾かれていた塀の上を飛び越え庭に降りた。そして、勇哉と摩耶の前で伏せのような姿勢をとる。左右にはウェインカラクルとチチカカコが構えている。一触即発と思われたが、猟犬はいきなり輪郭がゆれ崩れた。あとには紙が一枚。 「ほぅ、訳ありだね」 ニイメがゆっくりと近づき紙を拾い上げた。そこには『闇聖へ』と宛名されていた 繰り出された右の拳が正面のジェボーダンの獣を捕らえた。首をありえない方向に捻じ曲げて殴られた男は地に伏す。だがそれを代償に他の者が牙王の体に次々と剣を突き刺した。 全身に剣を刺されて、牙王の身体が傾く。胸を、腹を何本もの剣が貫通し、あきらかに心臓や肺を破壊している。致命傷であり、即死となってもおかしくない。だが 「たかが風穴があいただけだ!」 牙王が左腕を強く振る! それだけで貫いている剣が砕かれ押し出される。塞ぐものがなくなった傷口が開いて血が出るはずが出ない。かわりに空中から塵が集まり、符状になり傷を埋めていく。3秒とかからずに傷はなくなった 「…貴様、反魂符まで使ったのか」 鉄仮面からの声が動揺している。反魂符とは本来、死者の魂を呼び寄せ使役するのに用いる、魂を入れておく器とするために死体に張る符。それを生者に使用したとき、そのものは死者とも生者ともつかないような存在になる。死者は死んでいるから死なない。だから反魂符をはった体は壊れることはない。反魂符が勝手に再生させる。だが死んでいるものはなにも得れない。新陳代謝などは止まっているからただ朽ち果てるのみ。そして生きている死体は矛盾した存在。だからいつ崩壊するかわからない危うい存在。自分からそんなものになるということは自殺するも同然。 「…そうだ。オレにはなすべきことがある。そのためには死も問題ではない!」 そういうと、呆然としていた獣の一人の顔を握り締め、トマトのように握りつぶした。鉄仮面ごと。 「…化け物がっ!」
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