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「別に」
俺のそっけない返事に神崎は舌打ちする。
「なんだよ、醒めてるな。おまえ、大学のときと比べてなんか温度下がってるぜ」
ほっといてくれよ。
「今は何のバイトしてるんだ?」
「デニーズ、店員、ウェイター」
と俺は単語を並べる。神崎は苦笑した。
「匿名的なバイトだなぁ。で、仕事の調子は?」
「普通さ。時給が上がるわけでもなし。ったく、この街の最低賃金は安すぎる」
俺は憎々しげに煙を吹きながら言った。
神崎は笑う。そして、問う。
「なら、イツキ。どうして4年のときに就活しなかったんだ?」
俺は答えない。無言で窓の向こうの駅前の雑踏を見つめた。
色んな人々がそれぞれにそれぞれの場所へ向かっていた。足早に、淡々と、無表情で。
神崎は言う。
「おまえは就職できなかったんじゃない。就職しなかったんだ、自分の意思で。そうだろ?」
俺は鼻で笑い、短くなった煙草を灰皿に放り込んだ。そして言う。
「……ぼんやりしてただけさ。気づいたら大学が終わってた、それだけだよ」
窓の向こうの空はどんよりと曇り始めていた。
また雨か、と俺は思った。
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