smells like teen spirit

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帰る電車が同じだったので、俺と神崎は2人でプラットフォームに立つ。と、同時にとうとう空が泣き出した。 雨かよ、と神崎は顔をしかめた。 「そういや、イツキ。おまえ、まだやってんの?」 電車を待つ間、神崎が口開いた。 「何を?」 「ギターさ、大学んとき結構やってたじゃん」 神崎がギターを弾く仕草を見せる。俺は首を横に振った。 「あんなの、遊びさ。もうやってない。今じゃ部屋のインテリアだよ」 神崎は意外そうな顔をする。 「もったいねぇな。あのテレキャスター、フェンダーだろ。おまえ、大学んときめちゃめちゃバイトして買ったやつじゃねぇか」 「あの頃は若かったんだよ」 「そうだ。おまえ、今無職みたいなもんだろ? これからあのギター片手にロックスター目指すってどうだ?」 「そんな夢見る年頃でもねぇだろ」 俺が冷たく切り捨てると、神崎は大きく溜め息をついた。いちいち仕草がオーバーな奴だ。 「……おまえって、本当に醒めてるな」 ああ、知ってるさ。 「俺は現実主義者なんだよ」 自分に言い聞かすように、俺は言った。 神崎は話を諦め、携帯電話をいじり始めた。俺と会話するより、どこぞの見知らぬ人間とメールのやりとりをする方が不毛でないと気づいたのだろう。 先ほどより雨足は更に強まっていた。 「4番線に電車が参ります」 アナウンスがプラットフォームに響く。 俺は何の気なしに電車がやって来る方に目を向けた。 そして偶然と運命の基準が曖昧な狭間で 刹那的な瞬間を境界として このコンテクストに抗う術もなく 俺の視界に、彼女は現れたのだ。
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