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ガラリ。
教室のドアを開けた。私にはお馴染みの光景が広がっている。
教室のあちこちで話している仲良しグループ。
忙しそうに黒板に何かを書いている日直当番。
体力の有り余っている男子生徒が、床でプロレスをしていて教室はガヤガヤと騒がしかった。
だが、こちらに気づいた者達はお喋りを止め、私たちを見た。
段々と教室に静寂が広がり、やがて水を打ったように静まりかえった。
「綾乃ちゃん、おはよう!」
沈黙を破ったのは、一緒に手紙を書き始めた仲間たちだった。
その一言を封切りに、みんなが私たちの周りにわっと集まってきた。
「よかったね、終業式までに間に合って」
「心配してたんだよぉ!」
「授業で分からないとこがあったら教えてあげるからね」
一斉に伝わってくる、やさしい気持ち。
上っ面じゃない本当の言葉。
綾乃の周りに温かい輪が出来た。
大願成就した瞬間である。
綾乃がグッと手に力をこめたので、まだ私達の手が繋がれたままだった事に気づいた。
私も強く握り返した。
──ほらね?
一人じゃないよ。
みんなずっと待っていたんだよ。
「ありがとう、本当にありがとう、藤森さん」
綾乃が涙でぐしゃぐしゃになりながら言った。
皆もつられて泣いていた。
人一倍涙もろい私など、鼻水まで垂らしている有様だった。
朝のホームルームに入ってきたオカマホリ先生が綾乃を見て驚いた。そして、私に目を向けた。
私は得意満面の笑みで先生にVサインしたのだった。
あれから十年以上の月日が流れた。
こうして振り返ってみると、実にいい思い出として
私の中に刻まれている事を実感する。
あの時は綾乃が言ったその言葉を、今、私の方こそ彼女に言いたい。
ありがとう。
(了)
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