第3話

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「そうだね。会いにいってあげたほうがいいよ。本当に赤ちゃんがいるんだったら大変だよ」 「でもどう考えても悪戯だよ?本当に困ってるならもっと他にすることあると思うけど……」 「何か理由があるんだよ、きっと。切羽詰まってると訳わかんないことしちゃうじゃん。本当に友達ほしいだけかもよ」 もちろん本気でこんなこと思ってるわけじゃない。こいつはそういう優しさは持ち合わせてない人間だ。 「車の上に鍵置いとくからさ、勝手に持ってっていいよ。ちょうどこれから家帰ろうと思ってたの。みちるが来るころには、間に合うと思うよ」 「え?何で。私は明日行くんだよ」 「なに言ってんの。ダメだよ、今も駅で待ってるかもしれないじゃん。早く迎えに行ってあげなきゃ」 私はかなり色々と言いたかったけれど、相手の態度が気味が悪かったので黙っていた。じゃあ本当に駅まで行かなきゃならないんだろうか……こんな夜中に。 「どんなのだったか、教えてね。篠乃さんにも、話してあげる」 突然出てきた名前を聞いて、そうかそうだった私はこの名前を聞きたくないから彼女に電話するのが嫌だったんだと今更ながらに納得した。 「あんたの篠乃さんの話は、どうでもいいって」 「篠乃さんは別に私のじゃないよ。なに言ってるの」 真面目な声で言い返されて、私は黙ってしまった。そのまま向こうも何も言わない。怒らせたかもしれない。 私は多分泣きそうな顔をしていたろうから、電話で良かったと思った。 「ねぇ、みちる」 「……なに?」 私はどうして、こんなに彼女に振り回されるのだろう。 「眼鏡、行方不明じゃない?」 「……うん。良く分かったね」 「すぐ置いたとこ忘れるからさあ……台所とか見た?みちるコーヒーいれる時とか眼鏡外すよね、なぜか。だから探してみるといいよ」 「……分かった、ありがとう。探してみるよ」 「あのね、私みちるは眼鏡かけてるほうが好きだな。眼鏡似合ってるよ、すごく」 「そう」 「うん。だからかけてなよ。私と会うときは。じゃあね」 それだけ言って電話は切られた。ツーツーという音を聞きながら、もう眠気はなくなっちゃったなとぼんやり考えた。 台所に行くと、彼女の言った通りポットの横に眼鏡が置いてあった。私はそれを掛けて、携帯と財布だけ持って車を取りに行った。
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