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(あぁ……本当に妊婦さんなんだな……)
近くで見ると、はっきりと分かるほど彼女のお腹は大きかった。
すぐ横に来て頭を下げたので、慌てて窓を開けた。相手は少しかがんで私に笑った。
「メールの方ですか?」
「はぁ……。そうです……」
「良かった、本当に来てくれると思いませんでした……良かった。わざわざ、ありがとうございます……。嬉しいです。本当に良かった」
彼女は良かったを連発しながらにこにこと私に笑いかけた。
私は何だか微妙に警戒しながら、とりあえず隣に乗ってくださいと言った。
ここまできて知らんぷりする勇気は流石に無かった。
私は車を停めたまま、何を話せば良いやら分からなかったので、とりあえず思いついたことから言ってみた。
「いきなり、あんなメールきたから……」
「あぁ、ごめんなさい、絶対変な人だと思いますよね……。私あの時、色々あって、混乱してて。相談相手とかもいなくて、誰かと話したかったんです……」
「頼れる人もいないって……?帰るとこがないの?」
「はい……。あの、あるにはあるんですけど、帰りたくないというか、帰れないというか……」
言いづらそうだったから、それ以上は聞かないことにした。別にそんなに興味も無いし……。彼女はかなりハキハキと、明るい調子で話し続けた。
「あ、私美咲といいます。美しいに咲くって書いて……」
「そう……。綺麗な名前だね……。私はみちる……フツーにひらがなで」
「え?ゆりさんじゃないんですか?」
「ええ!?」
突然出てきた名前に驚いて、私は彼女を見た。相手も私以上に驚いたらしかった。
「あ……ごめん。妊婦さんなのに驚かせて」
「いえ、それは良いんですけど……。あの、メアドがそうだったので、ゆりさんっていうのかなって……」
「メアド?」
ああ、そっか。そういう意味か。
「Lilyのあとに数字の羅列でしたよね?だからこのアドレスの人は、ゆりって名前で、数字は誕生日なんじゃないかなって思ってたんです……。あれ、お誕生日ですよね?」
「うん、そう……。私の誕生日じゃないけどね」
「やっぱり。私、百合の花が好きなので、アドレス作る時いれたんです。数字は、適当に」
「じゃあ本当に、適当なアドレスに送ってその相手と会おうと思ってたの?」
「はい。馬鹿みたいですけど……。ちょっとやけっぱちになってて……。すみません」
「いや、私に謝ることないけど……。でも良かったね、私で……。変な奴とかだったら、危なかったよ」
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