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「みちるさんは変な人じゃないんですか?知らない人に、わざわざ会いに来たりして」と、笑顔で訊いてきた。笑顔は可愛い。
何となく、話しているうちに、だんだん彼女のことが好きになってきた。
少なくとも、このまま放って置くのは可哀想だなと思う位には。
「とりあえず……どこ行こうか……。お腹空いてる?」
「いいえ、大丈夫です」
「そうだよね。夜中だもんね……。じゃあうち行こうか」
「良いんですか?」
「うん。ひとり暮らしだから……」
私は車を出して、心持ち安全運転で家に向かった。妊婦が隣に乗っているとやっぱり少し緊張する……気がする。
彼女はそれから何も喋らず、ずっと窓の外を見ていた。私がたまに彼女のほうを向くと、にっこりと笑った。
こういう風に笑うひとは私の周りにはいない。何となく、相手を安心させるような笑い方。やっぱり母親だからだろうかと思ったけれど、多分違う。
だって例えば私のあのイカレた友達(勿論この車の持ち主のこと)に子供が出来たって、何も良い作用は生まれないだろう。
誰ひとり幸せにならないだろう……あの娘が母親になった時のことを想像して、勝手に気持ちが悪くなった私は、このふたりをなるべく会わせないようにしようと決めた。
家に着くと彼女がシャワーを浴びたいと言ったので、その間に私はせっせと彼女の寝る場所を掃除した。
まさか妊婦をソファに寝かせる訳にもいかないから、ベッドを使ってもらうことにして、私がソファで寝ることにした。
お風呂から上がった彼女は、何故か自分がソファで寝ると言い張った。
「でも危ないよ。落っこちたりしたらさ」
「大丈夫です、そんな泊めてもらって図々しいし。みちるさんがベッド使って下さい」
「えー……」
「本当に大丈夫ですよ。それに私ずっと布団だったのでベッドってあんまり慣れてないんです。ネカフェとかに泊まってた時は、座った姿勢のまま寝てましたし」
「笑い事じゃないよ……。あーもしかしてメールってネカフェでやってたの?何かもう出来なくなりそうとか書いてあったけど」
「いえ、あれは父親の家のパソコンを使ってたんです」
「父親ってその子の?」
私は彼女のお腹を指差した。
「いいえ、私の父親です」
「ふーん……」
父親はいるんだ。
赤ちゃんの父親はどうしてるんだろう。
やっぱり未婚なんだろうか。
もうとっくに日付は替わっていたけれど、寝れそうにもなかったのでコーヒーを淹れにいった。
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