第4話

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「何か目が冴えちゃったね」 「え、そうですか?私もう眠くて……」 「あ、そう……。じゃ寝たらいいよ。私しばらく起きてるかもしれないけど。静かにするから。何かあったら言ってよ」 「はい。ありがとうございます、みちるさん。今ちょっと眠たくて頭がはっきりしないんですけど、明日ちゃんとお礼言いますね……おやすみなさい」 小さいライトをひとつだけつけて、台所でしばらくぼうっとしていた。 さっきの電話のことを思い出す。 あの娘は私がいつも眼鏡をどこに置いたか忘れる、と言っていたけど、あれにはちょっとびっくりだった。 コーヒーを淹れる時には眼鏡を外すとも言っていたっけ。 ここに来た時、私がコーヒーを淹れるのを見ながらそんなことを考えていたんだろうか。 想像してみる。 私が今寄りかかっている所にあの娘が立って、私が眼鏡を外すのを見ている……。 私について少しでも頭を使うというのは、ちょっと想像出来ない。 あの娘は、私のことを何だと思っているんだろう。 多分、都合の良い時に何でもわがままを聞いてくれる友達程度だろう。 友達と言葉ではいつも言うけれど本当にそう思っている訳じゃないと思う。 もしあの娘がもっと真面目に、本気で私に頼ってくれたら、私は何でもしてあげるのに。今だってそうだけど、もっと何でも。……でもこんなのは、ただの負け惜しみみたいなものだ。あの娘が神様みたいに思っている、あの篠乃さんとかいう人に対しての。向こうは私のことなんか知らないだろうけど。 いや、多分あの娘は私のことを話しているだろう……私がどれだけ彼女の言いなりで、気が弱くてお人好しな馬鹿かということを。特に彼女の言うことは、絶対に断れないということ、その理由も彼女は多分知っていて、勿論それも話しているだろう。 彼女がいつも周りにしている様な、ただ悪意から出ただけの、吐いて捨てる様な悪口なら、まだ良いと思う……ふたりで私を馬鹿にしていたって別に構わない。 問題は、多分あの娘のほうにも私に対して情があるということだ。 ほんのちょっぴりかもしれないけど、それでも。 だから私たちはお互い、今のところは必要な人間だ。離れづらい。 それだけで充分なのかもしれない。
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