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第5話
次の日は朝から晴れて、春らしい天気だった。
居間の窓から桜が見える(もしかしたら梅かもしれないけど、区別がつかなくても特に困らないし)。
彼女も喜ぶだろうと起きるのを待っていたけれど、台所でかなりうるさくしていたにもかかわらず、お昼過ぎまで寝こけていた。
私はコーヒーを飲みながら携帯で桜を撮った。
こういう時、花や綺麗なものを見つけて写真を撮る時にも、頭のどこかでやっぱりあの娘のことを考えている……様な気がする。
綺麗だから見せてあげようとか、そういうのじゃない。
だってあの娘はそんなもの興味も無いし、まともな反応なんて返ってこない。
私だってあの娘が普通の女の子みたいに喜んでくれるなんて思ってない。
期待もしてないし。それでも空や花を見て綺麗だと思い、写真を撮って、あの娘に見せてあげたいと思う。
要するにほとんど自己満足みたいなもので、それをあの娘も私じゃなく他のひとにしている。
何だか馬鹿馬鹿しいことで、うんざりする循環だ。
「桜を撮ってるんですか?」
「うん。これ桜だよね。梅?」
「季節的に桜だと思いますけど……。綺麗ですね」
「うん。綺麗だよね……寝れた?」
「はい、おかげさまで。まだ眠いくらいですけど」
窓を開けたままにして、ふたりで昼食をとった。
「今日どうしようか」
「みちるさん用事あるんですよね?お仕事とか……私、外でなにかしてますから、予定通りにしてください」
「いや、たいした予定はないよ。せっかくだからどっか行く?お花見とか」
本当は今日は一日バイトだった。
彼女次第で午後から行くか休むか決めるつもりだった。
「桜、本当に綺麗ですね」
窓の外を見ながら、ぼんやりと言う。
今更ながら彼女はいくつなのだろうとふと思った。
初めはメールの感じや人懐っこい態度から年下――もしかしたら十代も有り得るかもしれないと思っていたけれど、こうしてじっくり見てみると、案外と年上なのかもしれない。
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