第1話

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スピーカーは、朝からずっと同じ曲ばかり流している。 今私が一番好きな曲。 好きだから何度も繰り返し聴いている訳だけど、多分明日には(少なくとも明後日には)きっともう飽きている。 好きだけど飽きた、と云う感情は何だか物凄く疲れると思う。 飽きっぽいのは私のせいでは無いのに。 コーヒーを落としている間に、読まずに溜まっていたメールを読んだ。 『みちるさんへ。最近ちっとも会いに来てくれませんね。みちるさんにとって私とお話するより有意義なことがあるとは思えないけれど。ママに泣かれたくなかったら、なるべく早く会いに来てください。 千波』 読んでから、そんなに長く行っていなかったかなと考えた。 そんな事は無い。 確か先々週に行ったばっかりのはず。でもあの娘の中では、そういう事になっているんだろう。 興味の無い時には思い出しもしないけれど、自分が会いたい時にそばに居ない人は、ちっとも会いに来てくれない、という事になる。 私はあの娘からたまに来る甘ったれたメールが嫌いじゃないし、母親に泣かれたくないから会いに行ってる訳でもないけれど。 コーヒーを取りに行って、時間を確認する。バイトの時間までまだ随分あった。 暇つぶしに、ネットで本のレビューを読んで、いくつか紙に書いておいた。 それでも時間が余ったので、何ヶ月かぶりにパソコンのメールを開いてみた。 メールは殆ど携帯でするから、こっちのアドレスを知っている人はあまりいない。 広告ばっかり。 ひとつだけ、妙なメールがあった。 『いま9ヶ月で、お腹に赤ちゃんがいます。頼れる人がいません。お金もあまりありません。もし良かったら、お友達になってくれませんか?』 …………何だこいつ。 日付は今日、十分位前。 悪戯だろうか。 いや悪戯だろうけど、どうしてここに送られてきたんだろう。 適当にアドレスを作って、送ってみたら、本当にあるアドレスで、それがたまたま私のだったという事だろうか。 まぁ私のアドレスは、割と思いつきやすい言葉が使われているけれど……。 残りのコーヒーを飲んで、洗い物をしてから着替えた。 音楽を消すついでに、もう一度さっきのメールを見てみた。
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