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第2話
バイト中に、千波の母親から電話とメールが交互にきていた。
電話をしたけれど私が出ないので、そのイライラと不安を忘れないうちにメールで送り、またすぐ電話をする……といういつもの行動。
昼休みに掛け直すと、私から返信がこないので千波が怒っていると言う。
(あの娘が怒っているところは見たこと無いけれど)
でも確かに千波のメールに返信するのを忘れていたので、バイトが終わってから行く約束をした。
千波の母親は、今すぐ来てほしそうだったけれど。
あのお母さんは、私のバイトのことなんて本当にどうでも良いらしい。
でもそれだけ、千波のことを心配しているってことだろう……と私は思う。
それより、千波のほうに私に早く会いたい理由でもあるのかが気になった。
何かあったのだろうか。
いつもの気まぐれだと良いけど。
千波の家に着く頃には、もう夜になっていた。母親は、二階の千波の部屋にすぐ通してくれた。
ノックをしても返事が無かったけれど、話し声が聞こえたから静かに中に入った。
「こんにちは」
「こんにちは。みちるさん」
千波は一人だった。
「もう夜だけど」
「誰と話してたの?」
「ひみつ」
くすくす笑う。
「ケーキ買ってきたよ」
「どこに?」
「下。ママに渡した。貰ってこようか」
「ううん。いらない」
「何してたの?」
私は千波に向かい合って座った。外は夜だし、カーテンも閉まっているから部屋は薄暗かった。
ここのカーテンは滅多に開かない。少なくとも私は見たことが無い。床に置いてあるノートパソコンの画面だけが、光って明るい。
「ネットなんかするの?珍しいね」
「これ誰も使ってないからって持ってきてくれたの。ママが」
「へぇ。何か楽しいのあった?」
「みちるさんはいつもどんなことしてるの」
「うーん……。だいたい音楽聴いたりとか……中古で本買ったりとか」
「ひとの読んだやつ読むの?」
「そう。目疲れるからあんまりやらないけどね……。ちなも明るくしたほうがいいよ」
「見たいサイトがあったの」
「見たいサイト?どんなの?」
「ひみつ」
「また秘密?気になるなぁ……。反抗期なの、ちな」
「アハハハ」
反抗期、と繰り返して本当に楽しそうに笑った。声を出して笑うのは珍しい。
こういう時はたいてい、気分が良くて素直に笑っているか、何か企んでいるかどっちか。
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