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「今日、どうして会いにきてって言ったの?」
「ううん。今日会いにきてなんて言わなかった」
「でもなるべく早く来てってメールくれたでしょ。何かあったのかと思って」
「べつに無いよ。みちるさんに会いたかっただけ」
「そう。なら良いんだけど」
千波は開いていたパソコンを閉じた。だんだん部屋の暗さに目もなれてきた。
「ママに言われて、来たんでしょう」
「そうじゃないけど……。心配してるよ、ママ」
「ママはね、とにかく私が怖いの。毎日ビクビクして。可哀想」
「じゃあ怖がらせないようにしなきゃ」
「それは無理なの。私の問題じゃなくて、ママの問題だから」
「じゃ、どうしたらママを心配させないようにしてあげれるかなって考えたら。ママはちなのことを一番考えてると思うよ」
「みちるさんにならお説教みたいなこと言われても、気にならないのは私がみちるさんのこと好きだからかな」
「そうかもね。だと良いけど」
「みちるさんも好きなひとにならなにされても怒らない?」
なんだか話があまり行って欲しくない方に行きそうだったので、私はポケットからお土産を出して千波に見せた。
「なに?それ」
「おみやげ」
私は千波の前で、クマの形をしたボトルをブラブラと振った。
ヒモが付いていて、首に掛けられるようになっているやつ。
「シャボン玉?」
「そう。可愛いでしょ」
「あ、まって」
千波は受け取ろうと手を出したけれど、すぐ引っ込めて、私の膝の上に乗った。
「かけて」
私はシャボン玉を千波に掛けてやった。
「どうしたの、これ」
「バイト先のレジ横に何故かいつも置いてあるんだよね。中学生はシャボン玉なんかしないかなって思ったんだけど。可愛いから、その内ちなに買ってこようと思って」
「ううん、嬉しい。するのもったいないけど。ありがとう」
そのまま私に寄りかかって、千波は黙り込んだ。私は千波の頭に手を置いて、部屋を見渡した。薄暗くても、どこに何があるのかは何となく分かる。
ベッドの上にある、何だかぼんやりとした丸い物は、多分ぬいぐるみだろう。
小さい時に両親に買って貰ったとかで、千波は前に、あの中には大事なものを入れていると言っていた。何を入れているのかは言わなかったけれど。
子供の頃大事にしていたものをそばに置いておくというのが、私には良く分からなかった。
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