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第3話
階段を下りたところで母親が待っていて、様子はどうだったかと訊いてきた。
「別に……いつも通りでしたよ。結構笑ってたし」
千波が外に行きたいと言ったことは、話すとまたややこしくなりそうなので、黙っていることにした。
「学校の事は言ってませんでした?」
「学校?」
いままで千波と学校の話をした記憶は全くなかった。そういうことは男の人と同じで、あの娘の世界には存在しないように見える。
「クラスの子が、朝迎えに来てくれてるんです」
「いつからですか?」
「2年生になってから。クラス替えしたでしょう。新しい先生が、近くに住んでる子にお願いしたみたいです」
「あー……」
それは面倒臭い。
私は近いうちにまた来ますと言って、家を出た。
今度本当に千波がどこかに行きたいと言ったら、どこに連れて行こうか考えた。
今日あんなことを言ったのは、思い付きじゃなく、何か千波なりに理由があるような気がする。
家の下を通る時、何となく千波の部屋を見上げたら、カーテンを少しだけ開けて千波が顔を出した。
手を振ったら振り返してくれたけれど、笑ってはいなかった。
千波はあの部屋で、毎日どんなことを考えているんだろう。
小さいときの、(多分)楽しかった思い出のある物に囲まれて、何を考えながら一日一日を過ごしているんだろうか。
私だったら、そんなところにはいたくない。
千波にとってあの部屋は安心できる逃げ場所なんかじゃなく、もしかしたら全然別のものなのかもしれない。
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