25人が本棚に入れています
本棚に追加
用事のある時に限って繋がらない奴だけど、今日は何となく声を聞けるような気がした。
思ったとおり相手はすぐにでたけれど、突然子供の叫び声のようなものが聞こえてきて、私は思わず携帯を落としてしまった。
「キャー!キャーアアアア!」
「……………」
それが何なのだか分かるまで、私は床に落ちた携帯を見ながら、しばらく呆然としていた。
「アアー!ウワー!アハハハハハ!」
「あんたさ……」
「キャハハハハハ!……ねえー聞こえてる?みちるちゃん!」
「聞こえてるよ。うるさいよ」
「アー……おっきい声出したら疲れた」
黙れこの野郎。
「ねぇどうしてそういうことするの?恥ずかしくないの」
「恥ずかしくない。恥知らずだから」
私は溜め息をついて、落ち着こうとする。
今度会ったら、絶対ぶん殴ってやろうと決めた(いつも思うだけで、本当に殴ったことは一度も無いけど)。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「久しぶりなのにいきなりそれ?」
私はまた溜め息を吐いた。
まともな会話ができるとは最初から思ってなかったけど、さっきの悲鳴でびっくりしたのと、もう夜中だったのもあって、さすがに疲れてしまった。
「眠いから、早く切りたいんだ。疲れてるし」
「なんで疲れてるの?千波ちゃん?」
違うよ。
あんたと話すほうがちなといるよりよっぽど疲れるよ。
「あのこさ、ちょっと図々しいよね。みちるのことパシらせてる感じで。みちるを困らせていいのは私だけなのにね」
「図々しいって、ちなに会ったことないでしょ」
「ああ、うん、まあそうだけど」
喋りながら動いているらしく、カタカタ音がした。
「それでさ、車貸してくれない?」
「車ぁ?いいよー。もってって……。あっやっぱダメ」
「何で?」
「千波ちゃんに使うつもりでしょ?」
「違うよ」
とっさに答えてしまって、自分がひどく嫌になった。何故か私は、彼女には嘘をつきたくないのだった……。私はさんざん騙されているし、もっと酷いこともされてるのに。
「嘘でしょ。どうしてそういう嘘つくかなぁ……」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ何に使うの。ほかに車なんて」
私はかなりへどもどしながら、悪戯メールのことを話し、それでも一応心配なので見に行ってみる、と説明した。
馬鹿みたいだけど他に理由が思いつかなかった。全く。
確実に笑われると思っていたけれど、何故か彼女は突然乗り気になった。
最初のコメントを投稿しよう!