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風邪をひいたら、自分はひたすら眠るようにしている。
たまに起きて水分をとったり薬を飲んだりしては、とにかく眠る。布団に潜り込んで壁の方を向いて。病院に行かなくても大丈夫な程度の風邪だということは自分の身体がよく解っている。だから熱と悪寒、頭痛がひくまで眠る。
眠るのには、もうひとつ理由がある。
それは、風邪で弱った自分を見られたくないから。
弟が病気がちなせいで、小さい頃は自分の具合が悪くても構ってもらえなかった。そのうち具合が悪くなったらひたすら隠すようになった。隠す為に眠ることを覚えて、いつしかそれは自分の習慣になった。
時々具合の悪くなった弟が甘えているのを見ると複雑な気分になったものだが、それも次第になくなっていった。
次に起きると、昼だった。
いい加減何か食べないといけないだろうか。しかし食欲は全くない。とりあえず水、と思って上半身を起こすと風邪のせいか寝すぎたせいか、くらくらする。ああ、これは、無理だ……。
ピンポーン。
……なんとタイミングの良いことだろう。
きっと、あのひとだ。
そういえば朝から放置していたケータイを開いてみれば、不在着信10件未読メール15件が表示される。
駄目、来ないでほしい。
早く、ここに来て……。
風邪で弱って心細い自分とこんなに弱っているのを見られたくない自分が同時に出てきて困ってしまう。
鍵の開く音。
ドアの開く音。
あの人が来る。
自分は一体どんな顔をしていればいいのだろうか。
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