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先に脱出したレッカーの瞳に映るは、室内にひしめき合う様に床へと突き刺さった氷塊。
「ふぅ。 流石に死んでしまいましたかね。 まぁ、この程度で死ぬのなら…………っ!」
そう言いかけた時だった。 レッカーが凄まじい殺気を感じたのは。 人の生きる隙間が無い程の氷壁から一瞬だが、そう感じた。
だがそれも杞憂だと思い、踵を返した瞬間。
「な…………にっ!?」
鮮血がほとばしった。
途端に背中から感じる焼き付くような熱い痛み。 胃液が逆流するような感覚で、口から際限無く零れゆく深紅の液体。
赤の絨毯が敷かれた床は黒い染みが浮かび上がり、一瞬でも気を抜いた己を強く恨む。
「どうして……生きている」
驚きと痛みに顔を歪めながら、背後を振り向く。 そこには室内に閉じ込めた筈の奴がいた。
左手に握られたスカーレットの剣は、それとは微妙に色の違う液体がこびりついている。
奥の部屋からは氷塊が消え失せ、水蒸気が蒸し暑く立ち込め、物事の顛末を語っていた。
(まさか……氷塊を溶かした!?
なるほど、この方は本物のようですね)
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