序章 人の城を奪う魔王

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 傷は疎か、衣服が破れた形跡すら見受けられない。 セロがどうやって無傷で現れたのかが、気になる所。 (こ、ここまで完膚無きまでに負けたのは初めてです。 是非とも名前を聞いておきたいですね) 「貴方の名前を聞いても……宜しいですか?」 「言って無かったか? 俺の名はセロ。 この大陸を統治する者さ」  レッカーの苦痛に満ちた顔には、どこか満足したような表情が見て取れた。 痛みに耐え兼ね、遂に膝が折れてしまう。 「この城は約束……通り譲りましょう。 さぁ、早く……止めを……刺しなさい」  だが、セロは首を縦に振らず、剣を鞘へと納めてしまう。 そして、代わりに手を差し延ばして来た。 「おい、レッカー。 俺の仲間……いや、従者にならない? 俺としては」  黒い染みの出来た床に膝を付き、レッカーは顔を上げる。 そこには殺されかけてた事を既に忘れたような、平然とした面持ちで誘うセロの姿だった。
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