PROLOGUE

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染まる・・・ 黒いシルクのワンピースに身を包むと私の心も同様に漆黒に染まる。 燃える・・・ 紅い薔薇のコサージュを胸元に付けると私の心は紅蓮に燃える。 憎しみの黒、 復讐の赤、 何処までも深く、 何処までも鮮やかに、 私の心は負の感情で満たされ風船の様に膨らんでいく。 二つの感情が相俟っていびつな憎悪となり、その憎悪は膨張し、私の心は張り詰め、今にも割れそうな状態にあった。ただ、その心が割れないよう私は努めた。割れて仕舞えば、その荒波の如く荒れ狂うであろう感情のコントロールは不可能だと私は感じていたからである。 私はこの醜悪な感情をじわじわと使いたかった。水出し珈琲の様に少しずつ、少しずつ、焦れったいくらいに抽出し、そして、燻す様に相手を苦しめる・・・私にはそんな憎むべき存在がいたの。 私には姉がいる。 このシルクのワンピースも薔薇のコサージュも全部、姉のお下がり。 私の部屋にある服は全て!いや、服だけじゃない。シャネルのバックや財布、アクセサリーだって全部そう!アンティーク調の時計も、マジョリカ焼きのアーティスティックなティーポットも、可憐な百合の造花も! クマのぬいぐるみだってそう! 私の部屋に姉の手の付いてない物は無い。私の部屋なのに姉の好きなヘリオトロープの香水のツンとした香りが漂ってきそう。 あぁ!厭だ! 私の部屋で姉に染まっていないのは私だけ。私はそんな私を愛おしくすら思う。 姉は私の持っていない物を全て持っている。物もそうだし、知恵や美貌も・・・。 姉は美しかった。私は姉よりも美しい人なんて見た事がない。 あの華奢な体つき。 白い肌に花の貌。 艶やかで黒くさらりとしたロングヘアー。 ほっそりとした綺麗な足。 何を着ても似合う。何をしても絵になる。私はそんな姉を見続けてきたわ。 姉は家では大体、テーブルで本を読みながら紅茶を飲んでゆったりと寛いでいるか、部屋で音楽を聞きながら勉強をしている。 本はシェイクスピアをよく読んでいる。 紅茶は数々のフレーバーティーを日々楽しんでいるようだった。中でもバニラがお気に入り。角砂糖を2個使っている。遇に蜂蜜も入れる。 勉強は、英語が得意で家庭科が苦手。 音楽はリストが好きみたい・・・よく部屋からエステ荘の噴水の水が戯れている様な綺麗なピアノの旋律が聞こえてくる。 私は姉の性格や好み、行動の事であれば何でも知っているの。
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