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――部屋の中は綺麗なままだった。
全体的にパステルカラーでまとめられた優しい雰囲気のインテリアは、壁から射し込む光を適温に温めて、まるで春の日差しのように部屋を照らしている。
――そして。
「……や。思ったよりすぐ会ったね、ソウヤ」
シノハラさんは、ベッドに腰掛けてのんびりとしていた。
俺はそれを見て、頭の奥底にこびり付いていた熱っぽいヘドロが、一気に洗い流されたような心地になる。
靴を脱いで、中学時代みたいにカーペットの上にあぐらをかいて座って、ベッドを背もたれにしてリラックスし始めると、上から「……何も聞かないんだね」という声が、霧雨のように降ってきた。
「……聞いてもしょうーがねーだろ。もう何もかも遅ェ」
「……そうだね。そろそろ二週間だから……流石に、お父さんの職場の人とかにバレる頃だよね」
「……やっぱそうなのか。まぁそうじゃねーかとは思ったけど」
「うん、お母さんとお父さんは床下に隠したよ」
隠した。
まぁ生きてる人に使う言葉じゃねーわな。
「……しっかし、何でまた? 怒らないで聞いてほしいけどさ、まさか知り合いからこんな事する奴が出るとは思わなかったけど?」
「あははッ、そーかも。私もまさか自分がこんなことするとは思わなかったし。……けど、うん。そうだね。どうなるか、解らないもんだね」
「そうだな。……つーか、まさか俺のせい、とかじゃないよな」
「ははっ、自意識過剰過ぎ。けどまぁ、そうだね、三分の一くらいはそうかも」
「マジで? うーわ、俺って最ッ悪……」
「まぁ結果論だけどね。アレが無かったからってこうならなかったって言いきれないし」
中学卒業間際。
俺は――シノハラさんに告白された。
本当、まったく想像もしていなくて、超パニックになったのを覚えてる。
そして。
俺は――逃げた。
答えを先延ばしにして。
うやむやにして。
無かったことにして。
だってそうだろう?
俺にとってシノハラさんはいい「友人」だった。
だけどそれは、女子としてとかそういうのじゃなくて。
むしろそういうのを意識しないから居心地がよくて。
だけど、告白されたら。
答えなきゃいけないだろう?
そしてどちらを取っても――俺の望む関係は。
壊れる。
だから逃げた。
言い訳はしない。
俺は現状を維持したくて。
何もかも台無しにした。
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