春眠暁を覚えず

2/3
前へ
/12ページ
次へ
 ――部屋の中は綺麗なままだった。  全体的にパステルカラーでまとめられた優しい雰囲気のインテリアは、壁から射し込む光を適温に温めて、まるで春の日差しのように部屋を照らしている。  ――そして。 「……や。思ったよりすぐ会ったね、ソウヤ」  シノハラさんは、ベッドに腰掛けてのんびりとしていた。  俺はそれを見て、頭の奥底にこびり付いていた熱っぽいヘドロが、一気に洗い流されたような心地になる。  靴を脱いで、中学時代みたいにカーペットの上にあぐらをかいて座って、ベッドを背もたれにしてリラックスし始めると、上から「……何も聞かないんだね」という声が、霧雨のように降ってきた。 「……聞いてもしょうーがねーだろ。もう何もかも遅ェ」 「……そうだね。そろそろ二週間だから……流石に、お父さんの職場の人とかにバレる頃だよね」 「……やっぱそうなのか。まぁそうじゃねーかとは思ったけど」 「うん、お母さんとお父さんは床下に隠したよ」  隠した。  まぁ生きてる人に使う言葉じゃねーわな。 「……しっかし、何でまた? 怒らないで聞いてほしいけどさ、まさか知り合いからこんな事する奴が出るとは思わなかったけど?」 「あははッ、そーかも。私もまさか自分がこんなことするとは思わなかったし。……けど、うん。そうだね。どうなるか、解らないもんだね」 「そうだな。……つーか、まさか俺のせい、とかじゃないよな」 「ははっ、自意識過剰過ぎ。けどまぁ、そうだね、三分の一くらいはそうかも」 「マジで? うーわ、俺って最ッ悪……」 「まぁ結果論だけどね。アレが無かったからってこうならなかったって言いきれないし」  中学卒業間際。  俺は――シノハラさんに告白された。  本当、まったく想像もしていなくて、超パニックになったのを覚えてる。  そして。  俺は――逃げた。  答えを先延ばしにして。  うやむやにして。  無かったことにして。  だってそうだろう?  俺にとってシノハラさんはいい「友人」だった。  だけどそれは、女子としてとかそういうのじゃなくて。  むしろそういうのを意識しないから居心地がよくて。  だけど、告白されたら。  答えなきゃいけないだろう?  そしてどちらを取っても――俺の望む関係は。  壊れる。  だから逃げた。  言い訳はしない。  俺は現状を維持したくて。  何もかも台無しにした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加