冬の足音が近づく日

4/8

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 地元の駅で降りると、そこは栄えているんだか栄えていないんだか、昔は繁華街でしたな香りがプンプンする寂れた広場が俺を出迎えてくれた。ガキの頃入った記憶のある喫茶店や、小学校のころ時々行っていた書店の入り口には、錆が浮き始めたシャッターが下りていて、それを見るたびに、郷愁にも似た寂しさを覚える。つっても、ここが地元だから、郷愁はおかしいが。  そしてここを始点にして伸びる、帰り道に一部にもなっている商店街は、見事なまでにシャッター街になっている。というか、商店街の方は、生まれてこの方栄えている姿を見たことがない。  典型的な地方の街。  それが、俺の生まれ育った場所。  どこで思考が暴走しだしたかは知らないが、久しぶりというわけでもない――というか毎日通っている街並みを何故かロマンチズムだかセンチメンタリズムに浸りながら歩いていると、いつもなら通らないはずの神社の門の前に差しかかった。どうやら普段は最短ルートで帰っているのだが、余計なことを考えていたせいか、小学校のころ遊ぶために通っていた道を無意識になぞっていたらしい。……今の俺、じつはかなり痛い人になっている気がする。いやいや、考えたら負けだってそれは、というか――  ―― うーわ、なっつかしーな。  よくここで爆竹炸裂させてたなぁ……と、まだ高二にも関わらずジジィのような懐かしい気分になる。しかしよく見ると、いくら秋とはいえ誰かがここで遊んだみたいな形跡が無く、すでにここは子供の遊び場ではない、ということが分かって、また少し寂しくなった。  ―― 世代の違いってやつかなぁ……。  不意に、我ながら、高校生の感じることじゃないなぁ、とも思った。  …………。  少しの間ぼーっと眺めた後。  ここに居ても仕方ねーや、と立ち去ろうとした。  その時。 「……んん?」  境内の中にある灯篭の脇に、なにやら素敵な塊を発見。  門から入って近づいて見てみると、この代物はやはり予想通り。 「……財布じゃん」  まさか生涯で拾う機会があろうとは。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加