冬の足音が近づく日

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 お約束というか義務というか、財布の中身をチェックしてみると……。  ―― げ、しけてやがる。  二千円ちょいしか入っていなかった。  …………うーん、これは…………。  なんとも悩むなぁ。  バイトをしていない高校生にとって、二千円っていうのはあれば嬉しい金額だ。どれだけ嬉しいかといえば、昼飯のパンが一個増やせるくらい嬉しい。  しかし、じゃあパクる価値がある金額かって言えば、そうでもない。  むしろ警察に届けたほうが、良いことしたーって優越感に浸れてお得では?  とも考えられる。  ―― これが万単位やら五千円札とかだったら速攻で懐にインなんだけどなぁ……。  たっぷり悩んで約五分。 「届けよ」  冷静に考えたら、財布を盗むのは不運が重なれば警察のお世話になる可能性があるということに思い至り、一対二の民主主義的判断で届ける方向で法案は可決した。  ―― さーて、交番ってどこにあったっけなぁ……。  正直記憶に無いその情報を、必死で脳内で検索していると。 「……あれ? ソウヤ?」 「ん?」  後ろからちょっと高め声がかけられて、振り返ると……。 「あれ、シノハラさん?」 「うわー、これまた変な所で会ったねぇ」  快活な笑顔の、見慣れた女子が居た。
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