冬の足音が近づく日

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 篠原和瑞(シノハラかずみ)。中学時代の部活の同年代で、その姐御な性格からなんとなく同い年なのに「さん」付けしてしまう人だ。性格も面倒見がよく、中学時代はけっこう一緒に遊んだりしたが、高校に行ってからは別の学校に行ったり、……まぁ色々あって、疎遠になっていた。  なんとなく、ケータイのアドレス帳から消せない名前でもある。  俺が少しだけ居心地の悪さと気まずさを感じている間も、シノハラさんは「いやー本当偶然、というかこんな所で会うとかもうスゴイな」と楽しげに話していた。 「…そういや、シノハラさんは何でここ来たん?」 「あ、そうだった! あのさ、ここらへんにサイフ落ちてなかった?」 「……」まさか。「……おもいっきり落ちてましたが?」  そう言ってさっき拾った財布を差し出すと、「あー! これこれ! うっわありがとー!」と、本当に感謝してますー! なイントネーションで喜びを表現していた。  ちなみに俺は冷や汗ダラダラ。  パクってたら確実終わってた。  シノハラさんは財布をポケットに入れると、「あー、本っ当よかった! ありがとソウヤ」と言って、俺に背を向ける。  そして去り際に振り向いて、笑顔で、 「じゃあ、またね!」  そう言って、シノハラさんは走り去って行った。 「……またね、ねぇ」  ―― 多分、もう会うこともないだろ。  中学卒業してから一度も会わなかった相手に偶然にも再会した。  そんな偶然、続くわけがないだろう?  頭の中心にどっかり居座っている冷めた――いや、捻くれた自分に辟易しながら、自分もその場を立ち去ろうとした――。  ―― その時だった。 「……あれ?」  さっき財布を拾った所に。  苔のように、雑霊が居た。 「……何で?」  無関係だとは思う。  だけど経験則上。  雑霊は決して。  ただの思念。  じゃない。
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