卯月

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ソイツは、ふと動きを止めて 俺を放すと 『初心だな』 と口の端を上げて、 俺の髪をそっと撫でた。 さっきの強引なキスと 違って、 優しい手付きに、 俺は「許してもらえるのか」 と一瞬思った。 それくらい、 優しい仕種だった。 「初心」な俺だって、 これから何をされるかくらいは、 わかる。 恐怖で、身が竦む。 でも、髪を撫でられた瞬間、 身体の力が抜けた。 『名は、なんと言う。 お前の名は』 冷たい指先が、 頬を撫でる。 「…ヒカル…」 『光、か。 因果な名だの。 この闇夜に、 光など決して射さぬというに』 ソイツは目を細めて、 少し悲しそうに笑った。 俺に同情しているみたいに。 そして、 それだけ言うと、 俺の身体を押し倒した。
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