卯月

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どれくらい時間が経ったのか。 ピシピシと頬を叩かれて 気がついた。 「…」 『やっと目が覚めたか』 ハッと起き上がると、 一瞬夢を見ていたのかと思った。 ものすごい、 悪夢を。 でも、着衣は乱れたままで、 半裸状態だった。 何より、下半身が重い。 何か入れられているような異物感と、 動かすと走る痛み。 場所は、変わっていない。 どこなのかわからないが、 犯された場所のままだ。 ソイツは壁にもたれて 腕を組んでいたようだった。 あまりに俺が目を覚まさないから、 しびれを切らして頬を張ったらしい。 「いて…」 思わず腰をさする。 『もう少し優しくしてやろうと思うだが、 お前があまりに暴れるので 少々乱暴になったわ』 ソイツは、のんびりした調子で言った。 まるで、俺のせいじゃないか。 反論する気にもならなくて、 のろのろと衣服を正す。 ソイツは立ち上がると、 俺の側まで来て、 こう言った。 『これでお前は己のものじゃ。 次はもっと良くしてやろう。 だから、逃げるなよ。 …まあ、身体を結んだ故、 己からは逃げられん。 …次の朔夜に、 また会おう。 ゆめゆめ忘れるなよ。 お前は己のものじゃ。 決して逃れることは出来ぬ』 そう言うと、 ソイツはしゃがみ込んで、 俺の顎を掴み、深く口付けた。 そして、 腕を払うようにして 顔を隠すと、 一瞬にして、 辺りの景色が変わった。 神社の外だ。 元にいた場所に戻ったらしい。 カバンも、そのままだ。 立ち上がると 耳元で囁くように ソイツの声がした。 『己は、朔夜じゃ。 光、また会おうぞ―』 「…朔夜、か」 夜空を見上げる。 月の姿はない。 そうか、今夜は新月だったのか。 今更ながら、 気がついた。
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