卯月

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『樹の上だ』 声は言った。 幼い子どものような声でもあり、 聡い大人のような声。 声音だけでは年齢の判断がつかない。 俺は神社の樹を見渡した。 さわ…っ、と風がそよぎ、 樹々が揺れる。 暗くて、よく見えなかったが、 神社の真ん中に生えている 神木の枝に、 少年?が座っていた。 そして、何メートルもあるであろう 高さから、 舞い降りるように、 ふわっと、地面に降り立った。 髪は長く、 頭のてっぺんでひとつに纏めている。 そして、時代劇に出てくるような、 古めかしい格好。 着物を着て、草履を履いて。 肌は、透き通るように、 白くて。 顔は、冴え渡るように美しい。 少し釣り上がった目尻。 通った鼻筋。 形のよい唇。 涼しげな瞳。 人形のように、 きれいな顔をしていた。
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