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ダメだ。 瞳に熱いものが溜まっていく。涙が零れ落ちる寸前、ふわっと柔らかい空気に包まれる。 蜜蜂はぎゅっと強く閉じていた目をゆっくりと開ける。 抱きしめられているわけではなかった。肩や所々痛む体には触れずに赤木の腕が緩く回される。 ぼやけた視界で赤木が目を細めた。 耳元に赤木の顔が寄せられ小さく囁かれる。その言葉に不思議そうに首を傾げたが顔を赤らめて俯いた。 「…俺はこいつについてるから。後は頼むな」 「しかたない、頼まれてあげるよ」 言葉とは裏腹に、慎は満足そうに笑った。 「お前はともかく、ナツなら信用できるからな」 「…なあにそれ」 「悪いな、遅くなって。早く病院行くぞ」 車の後部座席。 運転席には慎が手配したという、スーツを着込んだ男が一人、無言で車を走らせていた。 心なしか先程よりもぐったりとしたようにシートに体をもたれ掛けている蜜蜂を見遣る。 「うん、ごめんね赤木」 「何が」 「ついてきてもらって。面倒なこと頼んで、ごめん」 しゅん、とうなだれている蜜蜂に笑ってみせた。 「俺が好きで来てんだよ。それに、さっき言っただろ?」 優しげな笑顔を受けて、また頬が熱くなっていくのを感じた。 「泣くのは俺の前だけにしろ」 目元に滲んだ涙の跡を拭われる。くすぐったく感じて、目を細めた。 .
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