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「疲れたろ、病院着いたら起こしてやるから寝ろ」 言われてみれば、たしかに体は重くかなりつらい。 赤木は緩く微笑んで、蜜蜂を背もたれに寝かせる。 そのまま離れていく赤木に少しだけ不安になって手を伸ばした。 絡めとられた手にほっと目を閉じた。 そうしているとすぐに眠気が襲ってくる。 意識が完全になくなる直前、小さく赤木はつぶやいた。かろうじて聞き取れた声に、返事を返すことは出来なかった。 「ーーーー」 泣きそうな、掠れた声だった。 騒がしい倉庫とは対照的な、不気味なほど静かな奥の部屋。ガチャ、と音を立ててその中性的な外見を持った男が入ってきた瞬間、やっと終わったと思った。 やっと。 「君はさ、不器用な子なんだね」 前だけを見ながらその男は語りかけた。運転中だから当たり前のことだが。 取り巻きに見えたスーツ姿の男達は、運転席に座るバーテン姿の金髪の男に追いやられていた。 仮にも族のトップを張っていた奴と二人で車に乗るなんて無用心ではないか。しかも隣の助手席に。けれど冷静に考えてみれば、俺一人この男だけでどうとでもなる、ということだろう。 「不器用、」 「うんそう。でもオレはそういう子、好きだよ」 気の抜けるようなしゃべり方。 怪訝に思いながら男を窺う。 優しげな横顔に、ぞっとした。 この男は、 「君は、いや君達はverenoの皆に手を出してなんかいないよね」 すべてを知っている。 .
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