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「…なんて語ってみちゃったけど、これはただの独り言。他の人の前でぺらぺらしゃべったりはしないから」 男はその先の話を“独り言”にはしなかった。 「全部あんただけで調べたのか」 初めて口を開いたエイに、驚いたように目線だけを移す。 「うん。オレはこういうのを仕事にしてるくらいだからね」 エイは俯いたままで表情を確認することはできない。 「あんたはそれを知ってどうする」 「君はどうしてほしいの?」 間髪を入れずに返される答え。 「どうもしなくていい」 「…誤解を解きたくはない?」 エイはゆっくりと顔を上げる。疲れたように目を閉じた。 「簡単だ。あいつは仲間をやられた仕返しをして、俺はさらにその仕返しをした。それだけだろ」 言葉にすれば単純。 ただの幼稚な喧嘩だ。 けれど。噛み合わない歯車はズレたまま回り続けて、もう止まることはない。 エイはたしかにそう思っていた。 だから。 「オレはね今すごく怒ってるの」 空気が変わった、と感じたのは気のせいではない。 「今回の計画を立てたのはすべて君だよね。一緒にいたガラの悪い男達は君が適当に集めただけ」 「…ああ」 仲間に、復讐なんて馬鹿げたこと言うはずもない。あいつらはそんなこと望んでいない。これは本当に自分だけで企てたのだ。 「オレは君のこと嫌いじゃない。でも君はオレの大事な後輩たちを傷つけたし、その中には弟みたいに思ってる子もいたんだ」 顔が強張っていく。 君ならわかるでしょう? 「君に手を出すことはないよ。だからね、君が一番嫌がることをしてあげる」 子供のように無邪気な言葉。 きっとこの男はすべてを知って、そして跡形もなくすべてを壊していくのだ。 .
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