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「駄目だ。慎には関わるな」 めずらしく赤木は顔をしかめている。めずらしい、とは言っても実際はいつもこんなもので、柔らかい表情ましてや笑顔なんて蜜蜂の前だけなのだが。 それに気付いていない蜜蜂は困ったように言う。 「でも病院まで手配してくれたんだし、お礼言わなきゃ」 「俺が言っておけばいいだろ」 慎に会いたい、と言った途端赤木は機嫌が急降下した。 頑として首を縦に振らない赤木に首をかしげる。 慎が経営している喫茶店に連れていってくれたのは赤木自身だというのに。 そこまで考えた蜜蜂はため息をつく。 そういえばあの時は自分が赤木に付いていっただけだった。 迷惑をかけてたのかもしれない。 「おい、また面倒くさいこと考えてんのか」 …面倒くさい。 「……」 「あーもう、そういう意味じゃねえよ」 今度は赤木が困ったような顔をする。 ベッドのすぐ傍までやって来て、頭に軽く手を置かれる。そのまま優しく撫でられて、暗くなっていた気分が少しだけ浮上した。 病院まで送ってもらった後、すぐに診察をされた。 体のあちこちに暴行された傷があり、痣になったものもあったがそれらは軽傷といえるものだった。 鉄パイプで殴られたときの打撲。骨は折れてはいなかったがヒビが入っていたので数日間検査入院となった。 あの時を思い出すと、正直怖い。 長身の男には、たしかに憎悪があった。きっと自分なんかには想像もつかないほどの。 あんなに激しいほどの感情は自分だけになんて持ち切れない。…誰に向けられたものだったのだろう。 .
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