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…ヤクザ。
穏やかではないその言葉の響きに動作が固まる。
赤木は蜜蜂のふわふわとした髪を梳く。
「あいつは情報屋で、その腕を組織に買われたんだ。かなり重宝されているらしい。まあ組織に入ってはいないから、フリーとも言えるが」
「…情報?」
「ああ。興信所みたいな正規の所では断られるような情報の依頼を受けてる」
赤木は多くを語ろうとはしなかったけれど、合点はいった。
隠れ家のような喫茶店。きっと来るのは“情報”を買いに来た者。
そして、あの時慎が後ろに従えていたスーツ姿の男達。
自分とはかけ離れている存在だと思う。
でも。
「…あー、だから会うなってわけじゃねえから」
「え?」
そういう意味じゃないのか?
慎はヤクザの組員という訳ではないけれどヤクザの子飼いのような位置付けで。言い方はあれだが、関わるな、と。
首を傾げた。そんな蜜蜂に、赤木は小さくため息をついた。
「慎は味方にしときゃあれほど便利な奴はいない。あいつは多方面に顔が利くからな」
赤木の言っていることは理解できた。
…じゃあ何で慎に会ってはいけないのだろう。
「…あいつは性質がわるいんだよ。気に入った奴をいじり倒すのが趣味だからな」
「赤木のこと?」
「違ぇよ。お前だろ」
えっ、とのけ反る。
気に入られる心あたりがない。
赤木が苦笑いを浮かべた。
「…あいつ余計なことばっか言うからな」
「?」
赤木がつぶやいた言葉は聞き取れなかった。
けれど今までの口ぶりからして、赤木は慎のことをよく知っている。もちろん、慎も。
うらやましい。
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