48/49

3002人が本棚に入れています
本棚に追加
/304ページ
「…慎に会いにいくのは怪我が治ってから。俺が一緒に行くから一人で行こうとすんなよ」 渋っていた赤木にしつこく迫ると、ついに赤木は折れてくれた。 実を言うと、お礼をするのはともかく、もう一度慎に会いたかったのだ。 慎は赤木とどういう関係なのか。友人、だとは思うけれどそれ以上にとても親しいように見えたから。 …知ってどうする、ということはない。 「赤木お母さんみたい」 「ああ?」 「冗談!」 前では考えられなかった。冗談を言って笑う、だなんて。 赤木の存在に、こんなに安心していることも。 「ありがとう、あの時助けに来てくれて。すごく嬉しかったんだよ」 ずっと心につっかえていた。 自然と零れ出る笑顔。 「……」 「まあ赤木もすずくんを助けたかったんだろうけど」 卑屈に聞こえなかっただろうか。これも冗談のように軽く言えただろうか。 自分を助けに来てくれたわけではないことは分かっている。そこまで自惚れているつもりはなかった。 けれどあの時。 一番に自分を見てくれたような気がしてしまった。 そんなことを考えた自分が、それを心の隅で喜んでいた自分が嫌で。 伝えなければいけない感謝の言葉を言い出せなかった。 車に乗せてもらってから自己嫌悪ばかりだ。 赤木は何も返さなかった。その代わりに赤木は自分の顔を指差す。 「その唇の怪我、」 「?ああ、これは…」 男に頬を張られたとき、唇が切れただけ。 たいしたことないよ、なんて顔を上げ、そのまま固まった。 驚きで。 赤木の端正な顔があまりに近くにあったことや。 唇の傷に当たった吐息と、一瞬の感触に。 触れたのか、触れていないのか。 それすらも曖昧なキスだった。 .
/304ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3002人が本棚に入れています
本棚に追加