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ゆっくりと赤木が離れていく。視線をそらすことは出来なかった。 その目がすっと細められた。 「悪い、我慢できなかった」 壮絶な色気を持った赤木は舌先で自分のそれを舐める。その仕種にぞくっと体が熱を持つ。 ベッドのスプリングが音を立てる。 腰を上げた赤木は先程の妖艶な雰囲気を取り払い、蜜蜂を振り返った。 「今日はもう戻るな」 「…いつもより、早いね」 「ああ。書記に呼ばれてんだよ」 書記? 透と満のことだろうか。いつの間に仲良くなったのだろう。呼び出されているなら、わざわざ寮まで来てもらって悪かったな。 頭にもやがかかったような感覚。 「あ」 「…どうしたの?」 扉に手をかけて背を向けたまま声を上げた。 その背中を不思議そうに眺める。 「俺は佐伯を助けた覚えはない」 「え、」 「俺はお前を助けたかっただけだよ」 どういう意味。 赤木を引き止めようとした言葉は出てこなかった。 だって、今こっちを見られると困る。 怪我に障らないよう、ベッドから足を下ろす。 一人になった部屋。ほてった顔を冷やすため窓を開けた。 心臓の音がうるさい。締め付けられるような痛みに、胸を押さえた。さっきまで赤木と会話できていたのが信じられない。 …キス、された。 どうしてあんな。 自分が自分でいられない。嫌だとかそんな感情が無かった。 違う、これ以上は考えちゃいけない。 冷静になろうときゅっと目を閉じて顔を上げた。力を抜く。 緩やかな風。 乾燥したそれを思いきり吸い込んだ。 それどころではなくて気付かなかった。 夏のにおい。 もうすぐ、夏休みだ。 .
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