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零がちらりとこちらを見遣り、じっと目が合った。
「なあ、はにー今日元気なくね?」
「え?そんなことないよ」
慌てて手を横に振る。零の言葉にみんなの視線が集まっているのを感じたけれど、赤木の方だけは見れなかった。
「「会長がいないから寂しいんでしょー」」
得意げに双子は笑う。
「…そうなんですか?」
「違うよ」
更紗に尋ねられて即答。
寂しいって。子供じゃあるまいし。
「えーっ、だって二人とも信頼関係があるっていうか」
「お互いのことよく分かってるって感じ」
本当はどんな関係なの。
双子に迫られて思わず身を引いた。
どんな関係かと問われれば。答えはいたって簡単なもの。
だが、それはきっと言ってはいけないこと。
「お、幼なじみだって」
不満そうな双子をなだめるように言う。そして蜜蜂から聞き出すことを諦めた彼らはまた違う話題へと移っていった。
ほっと安堵する。問い詰められなくて良かった。
顔を上げた蜜蜂は固まる。今まで目が合わなかった、いや合わないようにしていた赤木がこちらを見ていたから。
射竦めるような強い視線に戸惑った。久しく見なかった怒っているような顔。
なぜか胸がちくりとした。
けれどそれは数えればほんの数秒のことで。
やっぱりその目はすぐに逸らされた。
車が滑り込むように静かに停められる。
双子は勢いよく扉を開け外に飛び出た。その途端感じる冷涼な空気。
薄い上着を羽織り、彼らに続いて車から降りた。
「すげえな」
零が感嘆の声を上げて辺りを見回した。遠くにはいくつも連なる山。比較的ここは高地なのか、広い街も見渡せる。
そしてすぐ傍にそびえ立つ白いペンション。バルコニーからの眺めも良さそうだ。
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