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笑みを深くする。
「今日はもう疲れたから解散ってことで、どうですか?」
「まあ、もう暗いしな。夕飯はどうする?」
「じゃあ部屋まで運んでくれるよう頼んでおくよ」
「うん。明日の朝は下のカフェで集合ね」
とんとん拍子に話が進んでいくので口を挟む隙がない。みんなはそれぞれに部屋の鍵を受け取り、各自移動していった。
零についていくように歩みかけた更紗は一瞬足を止める。
「二人とも、おやすみなさい」
階段に残ったのは、混乱したままの自分と無言で隣に立つ赤木。
赤木のため息が辺りに響いた。
部屋番号を確かめて鍵を差し込む。
…広い。
これなら二人部屋でなくとも良いじゃないか。なんてことを言っても仕方ない。
何となく部屋に入るタイミングが掴めず、立ち尽くした。
「入んねえの」
いつの間にか赤木は部屋に上がり、手に持った小さなバッグをベッドの傍に下ろしている。
「は、入る」
今日初めて赤木とまともに会話をした。
声が裏返った気がして慌てて口をつぐむ。
「…お前のベッド、そっちな」
けれど、どうやら遅かったようで、赤木が苦笑混じりに指をさした。
「…あ、うん」
「……」
更紗の笑みが何度も脳内再生される。
一体なんの意図があったのか。全てを見透かしたような笑顔。
ベッドに腰掛け、着替えの準備をしている赤木をちらりと盗み見て、そしてそんな自分に俯いた。
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